電子レンジの発明と歴史

パーシー・スペンサーが、マイクロ波を発生させるマグネトロンの改良をきっかけに電子レンジを発明して、日本や世界に普及するまでの歴史について解説します。

電子レンジの発明者、パーシー・スペンサーのプロフィール

アメリカの技術者、発明家。家庭の貧しさから学校に通えず、独学で電気工学の基礎を学び、アメリカ海軍に入隊。無線電信技術を身につけ、無線装置を作る技術を習得。

1920年代にレイセオン社に入社。第二次世界大戦中には、船や飛行機で使うレーダー送信機の設計に従事、生産量を飛躍的に伸ばして、連合国の勝利に寄与。

パーシー・スペンサーは戦後、レーダーに使うマグネトロン管から出るマイクロ波の加熱効果に気がつき、研究を重ねて電子レンジの開発に成功。

1950年に食品を温める方法として特許を取り、生涯にわたって、150もの特許を取得。1999年には、発明家の殿堂入りを果たす。

電子レンジで用いるマイクロ波について

電波の中で、波長が短いものをマイクロ波といいます。

電波の分類(マイクロ波)
出典:
palgiken.co.jp

そのマイクロ波を発生させる真空管マグネトロン(マグネトロン)は、1921年にアメリカのハルが考案し、1937年に日本の岡部金治郎が発展させました。

電子レンジの歴史-マグネトロンの加熱効果の発見-

第二次世界大戦が佳境を迎えていた1945年、51歳のパーシー・スペンサー(1894~1970)は、マサチューセッツ州レキシントンにあるレイセオン社の実験室で、航空機を探知するレーダーを開発していました。具体的には、マイクロ波を発生させるマグネトロンの生産性を向上させようとしていたのです。

マグネトロンは、第二次世界大戦において、敵航空機を探知するレーダー技術に欠かせない存在でした。マグネトロンを介して発生するマイクロ波は、波長が電波よりもかなり短いため、敵を発見する精度が高い上にアンテナは小型で済むという利点を併せもっていたのです。

パーシー・スペンサーは、マグネトロンの製造方法を改善し、マグネトロン管を大量生産できるようにしました。その功績によって、海軍から、民間人として最高位の名誉「優秀公共奉仕賞」を受賞しました。

マグネトロンの写真
出典:HCRS Home Labor Page www.hcrs.at

電子レンジの発明に至るきっかけは、パーシー・スペンサーがマグネトロンの改良に従事していた矢先に起こりました。

その日、たまたまお腹を空かせていたパーシー・スペンサーは、ポケットにチョコレートをしのばせて、実験室の中を歩き回っていました。

しばらくして、パーシー・スペンサーはポケットの中に妙な感覚を覚えました。ポケットに手を入れてみると、なんとチョコレートが溶けていたのです。

パーシー・スペンサーはこの瞬間、チョコレートが溶けていたのは、マグネトロンから出ている放射線の影響だと直感しました。

ここから、パーシー・スペンサーの新たな研究が始まりました。

最初に試してみたのは、トウモロコシの穂でした。マグネトロンの前にトウモロコシの穂を置いてみると、トウモロコシの穂は奇妙な動きをするや否や、すぐにはじけてポップコーンになりました。

次に生卵でも試してみました。マグネトロンの前に置いてみると、卵は小さく揺れ動き、同僚が不思議そうに顔を近づけた瞬間に生卵は破裂しました。

卵まみれになった同僚の姿を見て、パーシー・スペンサーは、マイクロ波を使って加熱ができることを確信しました。

電子レンジの歴史-電子レンジの発明-

パーシー・スペンサーは早速、同僚のローリー・ハンソンと共に「スピーディ・ウィーニー(即席ホットドッグ)」と冠した開発プロジェクトを始動します。

金属の筐体(こたい)を作り、その中にマイクロ波を送り込んでみました。すると、金属に当たって反射したマイクロ波は個体の中の狭い領域に集まり、あっという間にホットドッグが温まりました。

電子レンジの構造
出典:
kodomonokagaku.com

水の分子は、プラスとマイナスの電荷が偏って存在する極性分子なので、マイクロ波にあわせて振動します。食品内の水分子が振動することで熱が生まれ、食品を温めることができたのです。

こうして、夢の機械「電子レンジ」の基本原理が完成しました。

電子レンジの歴史-ビルトイン型電子レンジの誕生―

その後、「スピーディー・ウィーニー」の開発プロジェクトから数えて、家電製品として普及するまでに数十年の歳月がかかりました。

レイセオン社は、1947年に世界で初となるビルトイン型電子レンジ「レーダー・レンジ」の商品化に成功しましたが、全長は2メートル近くもあり、340キロという破格の重量だったため、一般家庭にはまったく売れませんでした。

レーダー・レンジは、主にレストランや鉄道で業務用として使われていました。

世界初となるレイセオン社のレーダー・レンジ
出典:Wikipedia

レイオン社はその後、アナマ冷蔵会社を買収したことで、「レーダー・レンジ」を一般家庭用に改良する技術を手にしました。

電子レンジの歴史-卓上型電子レンジの誕生-

ビルトイン型「レーダーレンジ」の発売から、さらに20年の改良期間を経て、ついに1967年に卓上型「レーダーレンジ」が発売されました。

この頃になると、販売価格も一般家庭の手が届く495ドルで提供できるようになっており、電子レンジが一家に一台の勢いで普及する一因となりました。

日本における電子レンジの開発と普及

日本では、1959年、東京芝浦電気(東芝)が国産初の業務用電子レンジ「DO-2273」を開発して防衛庁に納入しました。

東芝が開発した業務用電子レンジ
出典:東芝未来科学館

1961年に、国際電気(現、日立国際電気)が業務用電子レンジを発売しました。

1962年に、早川電機工業(現、シャープ)が国産初となる量産品の業務用電子レンジ「R-10」を販売しました。同年、電子レンジは国鉄の食堂車に登場しました。

シャープが販売した量産品電子レンジ「R-10」

1963年に、松下電器産業(現 パナソニック)が量産型の業務用電子レンジ「NE-100F」を販売して、電子レンジ普及の先駆けになりました。

パナソニックが販売した業務用電子レンジ「NE-100F」
出典:
100th.panasonic.com

1964年の新幹線開業時には、ビュッフェで電子レンジを使って温かい料理を提供するというサービスが始まりました。

1966年に、松下電器産業が家庭用電子レンジ「NE-700」を販売しました。

パナソニックが販売した家庭用電子レンジ「NE-700」
出典:
100th.panasonic.com

同年、早川電機工業が国産初のターンテーブル方式を採用した電子レンジ「R-600」を販売して、大きな話題になりました。

「R-600」は、後に電子レンジの主流となるレンジ内のテーブル(丸い皿)を回転させ、ムラなく加熱するターンテーブル方式を採用した画期的な商品でした。

1970年代には、手頃な価格になり、 一般家庭にも普及し始めます。今日、電子レンジは機能も増え複雑な調理もできるようになりましたが、基本的な設計要素はパーシー・スペンサーが発明した頃から変わっていません。

チャンスは準備された心にのみ降り立つ

パーシー・スペンサーがマイクロ波の加熱効果に気づいた頃、この現象に気づいていた実験者はほかにも大勢いたようです。

幸運なことに、パーシー・スペンサーは偶然観察したものから順に理論的な結論を引き出していく、きわめて柔軟な研究姿勢の持ち主でした。余計な先入観にとらわれず、偶然すら快く受け入れるパーシー・スペンサーの精神性は、明らかに他とは一線を画していたのです。

パーシー・スペンサー(1894-1970)
出典:massmoments.org

目指すべき目的地を脱線することも研究の醍醐味だということを、パーシー・スペンサーはよく理解していました。その結果、幸運な偶然はパーシー・スペンサーに微笑んだのです。

その一方で、電子レンジの発明のもとになった加熱効果を目にしながら、とうとう活かすことができなかった研究者もいます。彼らの何がパーシー・スペンサーと違っていたのでしょうか。

それは彼らが「本来おこなうべき研究」にのみ焦点を当て、その本筋から外れたように感じる無関係な現象には、別段の関心を示さなかったことです。

世界を変える大発見とは、ある答えを探し求めているときに起こります。しかし、それは一見すると、本筋とは無関係に思える偶然の現象として起こるのです。

幸運な偶然をつかむためには、先入観にとらわれない姿勢に加えて、2つの重要な要素が必要になります。

  1. 準備-自分の専門分野以外の領域においても、ひとたび起こった現象が何かの発見につながる可能性を感じとれるだけの基礎知識を備えておく-
  2. 欲求-深く掘り下げたいと願う欲求-

この『準備』と『欲求』が、幸運な偶然の発見には欠かせません。

忘れないでください。全ては一枚のチョコレートが溶けたことから始まったのです。

電子レンジの発明者、パーシー・スペンサーの名言

体温で溶けてしまったチョコレート、そしてタップダンスを始めたポップコーン - それは私の経験の中でも、最も劇的なシーンだった -

パーシー・スペンサー

[参考書籍]

1)ベン・イケンソン(著)村井理子(訳)「こうして特許製品は誕生した!」<二見書房>

2)リチャード・ゴーガン(著)「天才科学者のひらめき36」<創元社>

3)スペースタイム「科学史ひらめき図鑑 世界を変えた科学者70人のブレイクスルー」<ナツメ者>

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