防水スプレーの発明~「スコッチガード」誕生秘話~

防水スプレー「スコッチガード」の発明は、3M社で起きた、あるアクシデントがきっかけでした。ここでは、防水スプレー「スコッチガード」の誕生秘話について解説します。

防水スプレーの発明(Ⅰ)-偶然による発明-

「科学史上に残る発見や発明」を振り返ると、そこに「偶然」が介在していたことは明らかです。

研究者の多くが、Aというものを探すつもりが、ある偶然によってBを発見してしまった。まったく想定していなかったBを発見したことが、「科学史上に残る偉大な功績」となった。

このような具合です。偶然が顔を出すタイミングがいつなのか定かではありませんが、それは確かに存在しており、私たちの好奇心を掻き立てます。

元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカは、2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催されたリオ会議(RIO+20)のスピーチでこう述べています。

「偶然なんか存在しないというのは真っ赤な嘘だ。世の中には想像を超えたできごと、つまり偶然が存在している ― 歴史を学べば、それがよくわかる。」

文典:くさばよしみ編「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」

この言葉は、偶然の必要性を端的に言い表しています。

物事には、ほんの少し、偶然が入り込む隙間を残しておくことが大切なのです。そのことが、想像もしなかったような発見へと私たちを導いてくれるのです。

防水スプレーの発明(Ⅱ)-アクシデントが発明を生む-

パッツィ・シャーマン(シャーマン)は、1952年にカレッジを卒業すると、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング社(現在の3M社)に就職して、研究者として働き始めました。

パッツィー・シャーマン
出典:mujeresconciencia.com

就任早々、シャーマンは同僚のサミュエル・スミス(スミス)とともに、オイルや燃料の劣化に強い合成ゴムの開発に取りかかりましたが、この研究は早々に難航しました。

そんなある日、アクシデントが起こりました。

実験室の助手が、ある化合物が入ったフラスコを落としてしまったのです。その化合物とは、シャーマンが研究の中間段階で用いる予定の特殊な乳剤でした。

フラスコの中身は辺り一面に飛び散り、助手のスニーカーにも乳剤がかかってしまいました。しかし、このアクシデントは、やがて幸運を引き寄せることになります。

数日後、助手が自分の足元に目をやると、ふと「あること」に気がつきました。自分のスニーカーが、「ある部分」だけ全く汚れていなかったのです。

その「ある部分」とは、数日前にこぼした乳剤がかかった場所でした。

水中でその部分を擦っても、そこだけは水を弾いてしまいます。それでいて、スニーカーのキャンパス地の色は全く変化していませんでした。

助手はこの事実をシャーマンに報告します。話を聞いたシャーマンは、スミスと共にこの靴を詳しく調べることにしました。

その結果、スニーカーにかかった乳剤は、ありとあらゆる液体を弾き、泥にすら耐性があることが判明したのです。

2人はこの時、「この乳剤は使える」ことを直感します。

防水スプレーの誕生(Ⅲ)-スコッチガードの発売-

シャーマンとスミスの2人は、当初の研究を鞍替えして 、この特殊な乳剤の研究開発に時間を費やす決断をします。

彼女たちに幸運が味方したことは、3M社が撥水性をもつフッ素化合物の分野で市場開拓を模索していた時期と合致したことです。

このため、早い段階で研究開発の許可が下り、晴れて2人は新たな研究に没頭できました。

その後、2人はついに「ぺルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)」という化合物の開発に成功しました。1956年、3M社はこれを衣類の防水スプレー「スコッチガード」として発売したのです。

スコッチガード(発売当時のもの)
出典:news.livedoor.com

2人はその後もPFOSを応用して、車のシートの洗浄剤、カーペットの防水加工、写真プリントの保護など、数多くの商品化に成功しました。

防水スプレーの発明(Ⅳ)-偶然のチャンスに気づく-

シャーマンは、自分が研究者として成功した理由を「先入観をもたず、明らかに失敗とわかる場合でも、大切なことを見落とさないように心がけていたことです。」と述べています。

そして、「予期していない出来事をチャンスとして見逃さない能力は、だれかに教わるものではありません。」とも述べています。

どうやら、幸運の訪れは、自分自身で気づくほかにないようです。

アクシデントとして訪れた偶然を最大限に生かしたシャーマンは、世界中で大ヒットする商品の開発に成功しました。

2000年以降、3M社は成分を変更しながら、現在でもスコッチガードの販売を続けています。

[引用・参考文献]

1)くさばよしみ「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」<汐文社>

2)リチャード・ゴーガン(著)「天才科学者のひらめき36 世界を変えた大発見物語」<創元社>