合わせガラスの発明と歴史

エドゥアール・ベネディクトゥスによって、三重構造の厚みをもつ「合わせガラス」が発明され、戦争や自動車走行での安全に貢献した歴史について解説します。

合わせガラスの発明者、エドゥアール・ベネディクトゥスのプロフィール

エドゥアール・ベネディクトゥス(1879-1930)は、フランスの科学者、発明家、芸術家、織物デザイナーです。切傷治療薬のコロジオン製造会社の研究員として働いていました。

1903年に、ガラス製のフラスコを落とした時、破片が飛び散らなかったことに気がついたことで、合わせガラスの着想を得ました。

1909年に合わせガラスの特許を取得しました。また、デザイナーとしても活躍し、宝飾品、タペストリー、革製品、家具、織物などをデザインしました。

合わせガラスが発明されるまで

20世紀の前半に、新たな交通手段として自動車が誕生しました。フランスでは、パナール・エ・ルヴァッソール、プジョー、ルノーなどの自動車メーカーが次々と生まれ、自動車の需要拡大に応えました。

自動車大国となったフランスでは、性能面、特に自動車の加速スピードが飛躍的に向上していきました。

しかし、そうした性能面の向上に交通システムが追い付かず、日増しに交通事故の件数が増加していきました。

交通事故による傷害を深刻にしていたのは、当時の自動車に使われていた板ガラスにも原因がありました。板ガラスは耐久性が弱く、激しく揺れたり接触しただけで簡単に割れていたのです。

板ガラスの構造
文典:reform-market.com

そして、その鋭い破片が車内の人間に重症を負わせ、時には死亡させることもありました。

しかし、この問題を真剣に取り組もうとする業者は誰一人現れませんでした。

そんな中、自動車とは無縁の世界にいた「一人の男」によって、この問題は解決されることになっていきます。

合わせガラスによる厚みの誕生

1903年のある日、エドゥアール・ベネディクトゥス(ベネディクトゥス)は、研究室の棚からフラスコを落としてしまいました。

エドゥアール・ベネディクトゥス(1879-1930)
出典:Wikipedia

「やってしまった!」

そう思ったのも束の間、ベネディクトゥスはその時、不思議な光景を目撃しました。

「おかしい。・・・割れたフラスコの破片が飛び散っていないぞ!?」

床に落ちたフラスコは確かに割れていましたが、その破片は飛び散らず、フラスコにくっついたままでした。

ベネディクトゥスはこの現象に興味が湧きましたが、その時は割れたフラスコを棚に保管して、そこで終わってしまいました。

その後、割れたフラスコを思い出す転機が訪れます。そのきっかけは、ベネディクトゥスが目撃した交通事故でした。

若い女性が、自動車のフロントガラスの破片で重傷を負う惨劇を目撃したことで、フラスコの破片をくっつかせた溶剤のことを思い出したのです。

棚に保管していたフラスコを引っ張り出し、再び隅々まで観察しました。

フラスコのラベルを見ると、15年前にニトロセルロースを溶かして出来る「コロジオン」という溶剤を入れたものだと分かりました。

溶剤はすでに蒸発していましたが、フラスコの内側にべっとりとついたニトロセルロースが接着剤の役割を果たしていることが確認できました。

交通事故を目撃してわずか数時間後に、ベネディクトゥスは2枚の板ガラスの間にニトロセルロースを挟んだ「三重構造(triplex)」と名づけた合わせガラスを誕生させました。

三重構造の合わせガラス
文典:reform-market.com

合わせガラスの自動車への導入

1909年、ベネディクトゥスは合わせガラスの特許を取得し、自動車業界へ売り込みをかけました。

しかし、自動車メーカーは「合わせガラス」はコストがかかるという理由から、ベネディクトゥスの申し出に難色を示しました

しかし、軍部だけは別の反応を示しました。

当時は第一次世界大戦が勃発しており、「化学者の戦争」と呼ばれたこの大戦では、毒ガス兵器が多用されていました。

ガスマスクは兵士の必需品でしたが、目を覆うレンズ部分は壊れやすく、深刻な被害を招いていたのです。

そのため、合わせガラスは目を覆うレンズ部分に打ってつけの素材でした。

その後、ヘンリー・フォード(フォード)が「モデルA」と呼ばれる自動車の制作中に、割れたガラスの破片で技師の一人が大ケガをする事故が起きました。

この事態を深刻に受け止めたフォードは、1919年に合わせガラスを使用したフォード車を初めて登場させました。

その10年後には、フォードの全てのモデルで、フロントガラスに合わせガラスを使用し、他社もそれに倣いました。

合わせガラスと強化ガラス

三重構造の合わせガラスは今日でも健在です。

中央の接着層として、現在は別の有機化合物であるポリビニル・ブチラール(PVB)が一般的に使われています。PVBを使ったガラスは耐破損性があるだけでなく、防音性にも優れているからです。

また、安全ガラスには、合わせガラスのほかに「強化ガラス」があります。強化ガラスとは、板ガラスを約700度まで加熱した後、均一に急冷して、強度を3~5倍まで高めたガラスのことをいいます。

車などのフロントガラスは、現在でも三重構造の合わせガラスが好まれています。

強化ガラスは全体が粉々に砕け散るのに対して、合わせガラスは破損が部分的で済む場合があり、破損部分以外は視界が保てる利点があるためです。

ベネディクトゥスがフラスコを落とした結果、現在多くの人々の安全が守られていることを考えると、偶然の幸運に感謝しなければなりません。

[参考書籍]

1)リチャード・ゴーガン(著)北川玲(訳)「天才学者のひらめき36:世界を変えた大発見物語」<創元社>

2)スペースタイム「科学史ひらめき図鑑 世界を変えた科学者70人のブレイクスルー」<ナツメ社>

セレンディピティの最新記事8件