「カップライス」誕生秘話

日清食品が販売した「カップライス」の誕生秘話について解説します。

カップライス(Ⅰ)-日清食品の躍進-

今日、わたしたちの生活に欠かせないものの一つにインスタント食品があります。

その中でも、インスタントラーメンは全世界で年間1000億食以上も消費されている人気商品です。

「お湯をかけるだけで、すぐに食べられる」という食文化がこれほど世界中に広まったのは、日清食品の創業者である安藤百福(1910-2007)の功績が大きいでしょう。

チキンラーメン
出典:www.nissin.com

カップヌードル
出典:www.nissin.com

安藤百福率いる日清食品は、1968年の「出前一丁」や、1976年の「日清焼きそばU.F.O.」「日清のどん兵衛」など、ロングセラー商品を次々と開発・販売しており、まさに成功続きの企業だといえます。

出前一丁
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日清焼きそばU.F.O.
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日清のどん兵衛
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しかし、そんな日清食品も、苦い失敗を何度か経験しています。

その一つに、日清食品の年間利益に匹敵する30億円もの資金を投じて開発・販売したものの、売れ行き不振で生産を取りやめた商品がありました。

カップライス(Ⅱ)-失敗作「カップライス」の誕生―

1971年に販売を開始した「カップヌードル」が売れに売れていた1975年のことでした。

当時の日本政府は、大量に抱えていた古米を有効活用できないかと頭を悩ませており、安藤百福に「お湯をかけてすぐに食べられる米の加工食品」を開発できないかと相談を持ちかけました。

日清食品は一度、1967年に米を使った即席食品「日清ランチ」を販売した経験がありましたが、全く売れずに生産を取り止めた苦い思い出がありました。

日清ランチ
出典:yamada.sailog.jp

しかし、安藤百福はこの話を聞き、国に貢献するために、もう一度米を使った新商品の開発を決意しました。

前回の「日清ランチ」では、調理(瞬間油熱乾燥)後の油切れが悪いために「油っぽさ」が残ることや、フライパンの火加減など、調理法が難解なことが災いしました。

そうした反省点を踏まえて、調理後に熱風処理を加えて「油っぽさ」を改善させ、お湯だけで調理できるよう改良を加えました。

こうして、日清食品は万全の状態のもと、翌年の1976年に新しい即席食品「日清カップライス」を販売しました。

日清カップライス
出典:www.nissin.com

消費者の多様性に対応するために、「日清カップライス」は販売当時から「エビピラフ」、「ドライカレー」、「チキンライス」、「五目寿司」、「赤飯」、「中華シチュー」、「鮭茶漬け」の7種類のラインナップを揃えました。

「歯ざわり、味ともに申し分なし」「米食数千年の歴史を画する大発明」など、試食の段階で各方面から絶賛されました。

安藤百福はこの時を回想して、

「長い経営者人生の中で、これほど褒めそやされたことはなかった。経営者の落とし穴は、賛辞の中にある。偉くなればなるほど身の回りに甘い言葉が集まり、英雄的気分に浸っていると必ずつまずく。」

文典:安藤百福「インスタントラーメン発明王安藤百福かく語りき」

と語っている通り、いざ販売してみると、「日清カップライス」はまったく売れませんでした。

スーパーへ市場調査に赴いた安藤百福は、カップライスを一度カゴに入れたのに、最後は商品を棚に戻した主婦にその理由を聞きました。

「ご飯なら家にあるけど、ラーメンは小麦から自分で作らないといけない。」

「よく考えると、ご飯は家でも炊ける。」

小麦粉の5倍もする米を原料にしていたのでは、到底インスタントラーメンとの競争には勝てないという、当たり前の認識にこの時まで気がつかなかったのです。

安藤百福はこの時、「日清カップライス」の撤退を決意しました。社内では、時間をかけて消費者の需要を掘り起こそうという意見が大半を占めていましたが、安藤百福の考えは異なりました。

「経営は進むより退く方が難しい。撤退の時を逃したら、泥沼でもがくことになる。」

文典:ちくま評伝シリーズ 安藤百福 - 即席めんで食に革命をもたらした発明家 ―

こうして、専用の工場建設にかかった30億円をドブに捨てることになりました。

一度ならず二度までも壊滅的な大損をした日清食品ですが、「カップライス」に対する執念は、まだ燃え続けていました。

カップライス(Ⅲ)-飽くなき挑戦意欲-

2009年になると、日清は三度、電子レンジだけで調理ができるカップライス「日清GO FAN(ゴーハン)」を開発・販売しました。

日清GO FAN
出典:www.nissin.com

しかし、「二度あることは三度ある」とはこのことでしょうか。

電子レンジ市場は、カップ麺市場に比べるとまだ市場規模が小さく、ここでも生産を取りやめる憂き目にあいました。

それでも日清食品は失敗を恐れませんでした。三度失敗しても、挑戦を諦めなかったのです。

2010年には「カップヌードルごはん」を、さらに2017年には「カップヌードルぶっこみ飯」を販売して、カップライス市場を大いに盛り上げてみせたのです。

カップヌードルごはん
出典:www.nissin.com

カップヌードルぶっこみ飯
出典:www.nissin.com

[参考書籍]

1)筑摩書房編集部 (著)「ちくま評伝シリーズ 安藤百福 ― 即席めんで食に革命をもたらした発明家 ―」<筑摩書房>

2)安藤百福「インスタントラーメン発明王安藤百福かく語りき」<中央公論新社>

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