スペンサー・シルバーによる「ポスト・イット」の発明

ここでは、スペンサー・シルバーが貼って剥がせる付箋「ポスト・イット」を発明したエピソードについて解説します。

スペンサー・シルバー(Ⅰ)-失敗作だった粘着剤-

1968年、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング社(現在の3M社)の研究所において、自社製品のテープに用いるアクリル接着剤を改良する大掛かりな研究が始まりました。

スペンサー・シルバーは、より強力な接着剤に改良するつもりが、失敗して「接着してもすぐに剥がれてしまう、じつに不思議な粘着剤」が出来上がりました。

スペンサー・シルバー(右)
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後に「マイクロスフィア」と呼ばれる粘着剤の表面は、小さな粒子から形成されており、粘着面が少ないため、剥がしやすい特性をもっていました。

マイクロスフィアの拡大図
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マイクロスフィアの革新性
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接着剤としては完全な失敗作でしたが、スペンサー・シルバーはこの発明に大きな価値を見出していました。

スペンサー・シルバーは、それをスプレーや掲示板の表面に応用しようと考えましたが、周囲の反応は冷たく、全く相手にされませんでした。

それでもスペンサー・シルバーは、めげることなく「簡単に剥がせてしまうことの利点」を追求し続けました。

やがて、1972年にスプレータイプの接着剤として特許を取得しました。

スペンサー・シルバーはその後も、自分のアイデアを社内に広めようと努めましたが、結果は思わしくありませんでした。

スペンサー・シルバー(Ⅱ)-教会でひらめいたアイデア-

1974年、スペンサー・シルバーのセミナーに出席していた同僚のアート・フライは、数日後、いつものように教会を訪れていました。

説教を聞いていたところ、アート・フライは聖書に挟んでいた栞(しおり)を無くしていることに気がつきました。

アート・フライは、これまでに何度も聖書に挟んだ栞を落としており、その度にイライラしていました。

しかし、この日は違いました。

アート・フライの脳裏には、スペンサー・シルバーの発明した粘着剤を使って、本の栞として商品化できるかも知れないというひらめきが浮かびました。

アート・フライは、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング社を熱心に説得して、その製品への投資に同意させました。

その後、5年をかけて開発、設計が施され、製造に必要な機械の製作がおこなわれました。

1980年にマーケティング・キャンペーンを続けた結果、その人気は高まり、貼って剥がせる製品「ポスト・イット」として、世界中で販売されました。

3M社のポスト・イット
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スペンサー・シルバー(Ⅲ)-ポスト・イットの発明に学ぶ-

科学の歴史を辿ると、かつての研究は少数精鋭でおこなわれていました。

その後、時代の変化と共に、チームでの共同研究(開発)というスタイルに変わっていきました。

チームで研究するメリットは、ポスト・イットの発明とも密接に関わってきます。

ポスト・イットの場合で言えば、スペンサー・シルバーの失敗から誕生した粘着剤は、当初、周囲から全く評価されませんでした。

スペンサー・シルバーただ一人が、偶然に発明した事柄の価値を正しく理解できていたのです。しかし、一人だけ理解していても意味はありません。

せっかく掴んだ世紀の発見も、適切な活用法を考案し、周囲の人間にその重要性を正しく説明できなければ、それは単なる発明として終わってしまいます。

事実、スペンサー・シルバー一人では、偶然に発明した事柄の価値を理解できても、周囲の賛同を得ることはできませんでした。

つまり、企画力や営業力をもつアート・フライがいなければ、ポスト・イットは完成しなかったのです。チームで研究するメリットは、正にこの点にあります。

もし、あなたが新しいイノベーションを起こそうと考えた時には、

  • 偶然を偶然で終わらせない深い知識と洞察力を兼ね備えた人間を、チームに一人引き入れる
  • それとは別に、偶然に発見した事柄を正しい方向へと導き、周囲を説得できる人間を、チームに一人引き入れる

この2点が重要だと考えられます。

それでは、たった一人しかいない場合には、どうすればよいのでしょうか?

安心してください。たった一人で発明・企画・営業をこなした研究者だって大勢います。一人しかいないということは、あなたが「一人でも事を成せる人間」だということです。

あなたなら、たった一人でも、いや、一人だからこそ十分に凄いことができるのだと考えてください。

最後に、一つだけ忘れないでください。

スペンサー・シルバーは、周囲から認められなかった事柄に対して、じつに5年もの間、あちこちで講演して理解者を探し続けたのです。

なによりも大切なことは、諦めないこと。この一点を決して忘れないでください。

[参考書籍]

1)ベン・イケンソン(著)村井理子(訳)「こうして特許製品は誕生した!」<二見書房>

2)ジャック・チャロナー(編)小巻靖子・松浦弘・安藤貴子・プレシ南日子(訳)「人類の歴史を変えた発明1001」<ゆまに書房>

3)ジョン タウンゼンド(著)吉井 知代子(訳)「科学者たちの挑戦 ― 失敗を重ねて成功したウソのようなホントの科学のはなし」<ゆまに書房>

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